- 健康医学 面白ゼミナール
- 2026.09.28
このコラムの前のシリーズ(転倒予防面白ゼミナール)の#43『「排尿失神」で転ぶ』(2022年4月13日掲載)で、関西に住む50代前半のビジネスマンの排尿失神の事例を紹介しました。本症状は、排尿に伴って「血管迷走神経反射」が起きて意識を失うものと述べました。そのメカニズムは、排尿をギリギリまで我慢し膀胱がパンパンに膨らんで血圧が上昇し、その状態から排尿したため一気に血圧が下がり、排尿直後に脳への血流が乏しくなって意識を失い、トイレ近くで転倒するというものです。
リハ総研のホームページへのアクセス数のデータ分析を、小川所員が、毎月のスタッフ・ミーティングの時に報告してくれますが、この「排尿失神」のコラムが、継続的に多くの人に読まれていることが分かります。それだけ関心のある症状なのでしょう。
このコラム公開後、一般市民向けの転倒予防に関する講演等の機会などでは、意識的に排尿失神についても語るようにしています。ほとんどの方が、「知らなかった」、「初めて聞いた」と答えるのですが、一方、「実は同じような体験をしたことがある」「家族や仲間が、そうだった」という話も少なくありません。つまり、一般的に、排尿失神による転倒の詳しいメカニズムは知られていないのですが、ごく普通に起きるものであり、特に男性で、酒をよく飲みトイレで立って用を足す習慣の人は要注意であることを、もっと啓発しなければならないと考えています。

(イラスト: お酒を飲んだ後、トイレで立ったまま排尿した50代の男性が、頭がクラクラして
倒れそうになる。←Google Geminiで作成〕
では女性は排尿失神が起きないかというと、そうではありません。たとえば、若い女性が、出産後に初めてトイレに行き、排尿直後に意識を失い、転倒しかけ、近くで待機していた助産師(看護師)に危うく支えられ、水平姿勢を取ることで、間もなく意識を回復した事例が、医学誌に報告されています(平泉良枝他:分娩後初回歩行時に起こった排尿失神の2例、日医大医会誌、2011:7(2):103-105)。最近では、正常分娩後、特に問題がなければ、早期離床が勧められる傾向にあり、初回歩行時の病院内転倒事故が散見されますので、安全管理のため出産直後の女性たちへの支援と介助が求められます。
(イラスト: 出産直後、トイレで排尿後に気を失いかけている20代の女性。
待機していた助産師が危うく助ける。←Google Geminiで作成〕
また、糖尿病については、インスリンが効きすぎて低血糖で意識消失する事例が知られています。糖尿病の合併症として、神経障害をきたすことがあります。排尿直後の血圧低下に際して、自律神経の調節機能が減弱していると、血圧の急激な変動に迅速に対応できなくて、意識消失をきたすことがあり、糖尿病の女性は、そうでない方に比して、排尿失神にはより注意が必要なのです(毎日新聞2026年9月6日、「くらしナビーすこやかー」、排尿で失神することも、渡辺尚彦、「楽しく下げる高血圧」を参照)。
いずれにしても中高年になれば、からだの機能が弱ってくるのは誰でも同じです。まずは男性でも女性でも、この排尿失神について知っていることが重要です。そして、とりわけ男性が多量の酒を飲んだ後には、小用を足すときには、座位姿勢が望ましいこと。男女ともに、糖尿病を有していて神経障害がある方は、排尿失神の発生には、より一層気を付けましょう。
執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
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