酔っ払った犬のイラスト 関西に住む50代前半のビジネスマン。コロナ禍の中、この2年余りテレワークが多くなっていますが、最近、部長に昇進したことで、出社しての打ち合わせや管理業務も増え、疲労が蓄積していました。ついつい、自宅で飲むアルコールやタバコの量も増えていました。

 春らしくなってきた週末の夕べ、多忙であった1週間を振り返りつつ気持ちよくお気に入りの缶チューハイを多めに楽しみ、いつもより早く床につきました。

便座を上げたトイレのイラスト 午後11時頃、やや強い地震の揺れでいったん目が覚めたところ、ちょっと尿意を感じましたが、睡魔に負けてトイレに行くのを我慢してそのまま夢の中へ……。そのうち、お腹も張ってきて、さすがに我慢しきれなくなって慌ててトイレに駆け込み、いつものように立っての排尿を済ませてドアを開けて廊下に出ました。リビングの電気がついていたので見ると奥さんがまだパソコンに向かって仕事をしていたので、「おやすみ!」と声をかけてベッドに戻ろうとしたその時、突然失神してしまいました。

気絶のイラスト
奥さんが救急車を呼び、近くの病院に搬送される間に意識を回復し、適切な判断と治療を施されたことで倒れた本人も落ち着きを戻し、その夜のうちに無事に自宅へ戻ることができました。

 医師の診断は「排尿失神」でした。

 

 排尿失神は、排尿に伴って「血管迷走神経反射」(迷走神経は、12対ある脳神経のうちの10番目。運動・知覚及び自律神経のうち、副交感神経の調節に重要な役割を果たしている)が起きて意識を失うものです。

トイレを我慢する子供のイラスト 排尿をギリギリまで我慢していると、膀胱がパンパンにふくらんで血圧が上昇してしまいます。しかも、その状態から排尿すると一気に血圧が下がり、排尿直後に脳への血流が乏しくなって意識を失い、トイレ近くで転倒するということがよくあります。特に、男性は立位で排尿をすることが多い(最近の男の子は、幼い頃から座位で排尿することが習慣化している例も少なくないようです)ので、より大きな血圧の変動につながると考えられます。

 一般的には、中年男性に起こりやすく、特に過労状態で自律神経の調節機能が弱っていたり、深酒をしてアルコールによる利尿作用で尿が出やすい状態になっている場合、あるいは高血圧の人なども排尿失神を起こしやすくなります。

 冒頭の男性のように家族に発見されることが多いのですが、トイレの中、あるいはトイレから出たところで「バタン!」と大きな音がして倒れているところを発見されるので、脳卒中(脳出血、脳こうそくなど)や心臓発作などの重篤な病気で倒れたのではと心配されますが、排尿失神であれば、何かしらの後遺症をきたすこともなく、無事に回復します。

 ただし、なぜ排尿失神が起こったのかを振り返り、日頃の生活、食事、飲酒、喫煙、運動習慣、仕事上の心身のストレス、疲労など、要因を分析して、それを契機にアルコール量を減らす、タバコを控える、定期的に小まめに運動をする、仕事の段取りを再検討するなどの対策を取ることが大切です。

洋式便器の使い方のイラスト(OK) また、排尿失神により転倒をして頭部を強打した時には、脳しんとう、急性硬膜下出血や脳挫傷などをきたす例もあり、その対応も必要になります。

 そして、夜中にトイレに行きたくなって起きた時には、男性でも座位で排尿をすることを心がけ、血圧の急激な変化を避ける工夫をしてもよいでしょう。くれぐれもトイレで転ばないようにご注意を!

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