爪を切っている介護士のイラスト
転倒の原因の一つに「つまずく」という動作があります。この「つま」は、元々「つま(端)」から来ていて、「爪」は「指の端にある」ことに由来しているようです。

 「つまずく」も、元々は「爪突く」の意味で、歩いていて「爪先(つまさき)」をわずかな障害物や傾斜に突き当てたり、引っかけたりすることで、転倒・骨折をきたしたりします。

 そして、「つまずく」の語源の「爪」の病気、とりわけ「爪白癬はくせん」が転倒の原因となり得ることがあり、「爪ケアが大切」というメッセージは、本コラム #09でもお伝えしました。

 2021年10月に名古屋市で開催された日本転倒予防学会第8回学術集会(会長:大高洋平藤田医科大学教授)のランチョンセミナー「医療と介護のための爪のケア」では、「転倒予防対策としての爪白癬治療の有用性」(加藤豊範先生:小林記念病院診療技術部部長/薬剤師)と「転倒に結びつく爪白癬の蔓延の現状と対策」(高山かおる先生:埼玉県済生会川口総合病院皮膚科主任部長)という二つの講演が開催されました(共催:エーザイ(株))。

そこで筆者は座長を務めましたが、日本転倒予防学会で爪のケアのことが研修講演の形で大きく取り上げられたのは、初めてのことでした。

お二人の講師によるお話は大変興味深く、実践的な内容だったので、聴衆は熱心に耳を傾けており、きっとそれぞれの職場や活動場所で、その知識と情報を役立てていただいていると思います。

 

座長総括は、次の5つにまとめました。

1.「」:爪白癬は転倒のリスク因子

 爪白癬は、実に10人に一人の割合。放置したために、重症化してしまった例も少なくなく、その結果、転倒に結びつきます。ただし、昔と違って、今は良い薬があり、「治る病気」です。

 教育・啓発を広げて、軽症(爪が白濁していたら要注意)のうちから適切なケアと治療を行うよう、社会に警鐘を鳴らすことが大切です。

2.「」:目立たないが、高齢者の足爪の異常は多い

 日常的に高齢者の両足、とりわけ10本の足指の形や色などを点検する医師・看護師などの医療者はもちろんのこと、介護職、家族においても少ないでしょう。しかし、転倒に結びつく、高齢者の足爪の異常、病気、障害は多く見られます。まずは、足指の爪に注意を払うことが必要です。

3.「」:飲み薬も塗り薬も良く効く

 かつては、「水虫は治らない」、「水虫の薬はなかなか効かない」とされて、途中で爪白癬の治療を諦めてしまう例が多くありました。しかし、現在では、水虫の原因である白癬菌を退治する良い薬が病院でも薬局でも処方され、購入することもできるようになりました。そのことを認知することが大切です。

4.「」:健康教育に足と爪を入れよう

 小・中学校の授業で使う教科書や教育資材の中に、足の健康、爪の健康と病気などについて取り上げているものはどれくらいあるでしょうか。それらの知識・情報を得ることがほとんどないまま、青少年がいざ水虫にかかってしまうと、無知であるが故に、そのまま放置し続け、成人となり、高齢者となり、爪白癬が重症化して、結果治りにくくなるのでしょう。「予防に勝る治療はない」のです。小・中学校の健康教育に、ぜひ、爪のことを加えるように皆で働きかけましょう。

 現在、高山かおる先生と共に、小・中学生向けの教育資材としての書籍の企画を練りつつ、某出版社と調整を図っています。

5.「」:足の爪は小さな運動器

 からだを動かし、からだを支える器官が「運動器」です。骨、関節、筋肉、靭帯、腱、神経などと並んで、爪も大切な運動器なのです。小さな存在ではありますが、これまで以上に、大きな注目を集めるべき重要な意義を有する器官なのです。

 

 これら5つの頭文字を並べるとつめのケアとなります。

 

〔参考・引用文献〕


『医療と介護のための爪のケア』

武藤芳照監修、高山かおる・杉原 鼓・渡邉 洋 編著
新興医学出版社、2021年

 

 

 

 

 

 

 

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