2020年10月で70歳の古希を迎え、「人生70なり」の言葉が、長寿社会となった現在では、当事者としては、全く実感が伴いません。しかし、高校や大学の同期生・同級生、親しい仲間から、「リタイアしました」「第2の人生をゆっくり歩こうと思います」などとの挨拶のハガキや手紙が届けられると、「古希」の実感はないとしても、まちがいなく人生の後半戦に突入していることを再認識させられるものです。

 あるスポーツ関係者からのリタイアの手紙には、「上りより下る方が難しい」と記されていました。長年、スポーツ団体の役職を続け、まさしく八面六臂の活躍をしていた人らしい実感の表現でした。

 中高年の山登りが、健康のため楽しみのためと大変人気で、団塊の世代(1947年~1949年生まれ)を中心として、高齢者の登山愛好家が増えているようです。


 この7月にも、医学研究で著名な大学教授(68歳)が、奈良県の山間やまあい
の村で、登山中に遭難して、幸い発見されたことがありました。午前9時半頃から上り始め、午後1時半頃に山中で道に迷い、石につまずいて倒れ、負傷(鎖骨骨折などの疑い)して動けなくなったといいます。日帰りの予定であったものが、夜になっても帰宅しないことから、家族が警察に通報し、捜索の結果、登山道から約800m外れた場所で発見されたようです。夜間の山中にたった一人で、沢の水を飲んでしのぎつつ、助けを待っていた心細さはいかばかりであったでしょうか。おそらく、午前中は元気に上っていたのが、道に迷い、下りで転倒し、ケガをして動けなくなってしまったのでしょう。

 中高年登山は、足腰を使い、自然を満喫し、樹々や草花に接して五感を刺激することもでき、楽しい健康法でもあり、レクリエーションでもあります。

 上りの時は、比較的ゆっくりと歩を進めますが、下りの時は、ややスピードが増すと共に、上りの活動で脚も疲れていることもあって、歩みの安定感が低下しがちです。そこに小石や凸凹や落ち葉、段差などの道の急な変化が加わると、つまずいたり、滑って転びやすいのです。また、山道は簡単に迷います。私も大学時代の夏休みに、親しい友人たち4名で旅行に行き、福島県磐梯山北側の五色沼などの観光に訪れた帰り、下りの山道で迷ってしまい、夕暮れまで難渋した経験があります。

 人生と同じく、登山は上りよりも下りが難しいのです。そして、山道で転ぶと大ケガをして動けなくなり、「遭難」とされ、捜索隊が出動するような結果まで生むことを十分にわきまえて、無理のない計画としっかりとした装備と携行品の用意が必要なのです。

 

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