私の仕事の本拠地である東京健康リハビリテーション総合研究所は、文京区本郷の東京大学キャンパスのごく近くにある10階建てのマンション「スカラグリジア」の最上階にあります。
 その名の「スカラ」は階段、「グリジア」は灰色を意味するイタリア語から由来するといいます。映画館などの劇場の名には「スカラ座」と称しているものが多くみられますが、これはイタリア・ミラノにあるオペラ界の最高峰とされる歌劇場「スカラ座」にあやかっているのでしょう。
 駅舎やデパート、ホテルなどにある「エスカレーター」は、このスカラの言葉を元にして、「動く階段」、「電動階段」、「自動階段」の意味で造られた元々は米国のエレベーター会社オーチスの商標名であったとのことです。

エスカレーターのイラスト

 大きな荷物を持って何階にもまたがって階段を登らなければいけない時に、エスカレーターを見つけるとホッとします。実に便利な乗り物です。
 一方、このエスカレーターで転倒、転落する事故が全国各地で発生しています。特に高齢者、障害者、子どもの事故が多く見られます。
 エスカレーターに乗る時、降りる時。どのタイミングで足を前に進めるか、虚弱な高齢者や障害者、子ども、そして、その日体調の悪い人などでは結構緊張し、なかなか難しい動作なのです。

 そのため、うまくエスカレーターの動きに合わせられずによろめいたり、つまづいたりして転倒、転落することがあります。

いざうまくエスカレーターに乗っていてもリスクがあります。手すりにつかまらず両手に荷物を下げていて、エスカレーターの動きによってバランスを崩す。片側空け(東京では右側空け、大阪では左側空けが一般的)により、急いで昇降してきた人にぶつけられたり、その速い動作に影響されてバランスを崩す。エスカレーターを駆け下りる人のイラスト上りの時、上に立っている人が落ちてきて、あるいは大きな荷物が転がり落ちてきて衝撃で転倒し、さらに悪い場合にはそのまま将棋倒しに。こうした事例が少なからず発生し、打ぼくか骨折、悲惨な場合には頭部を強く打って死亡するような重大事故も起こるのです。

 

 埼玉県は、2022年10月1日から「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」を施行します。『エスカレーターを利用する者は、立ち止まった状態でエスカレーターを利用しなければならない』と定められ、全国初めての取り組みが実行されます。

 今はやりの「トリセツ(取扱説明書)」をひもとくと、エスカレーターは歩行禁止を前提に設計されたものであり、「歩かずに立ち止まってベルトにつかまる」と書かれているとのことです(文化人類学者/斗鬼正人氏、毎日新聞2021年5月5日付け

 便利なエスカレーターを快適に利用し、転倒・転落事故がこれ以上エスカレートしないように、留意したいものです。

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