酔っ払ったウサギのイラスト 「酒は百薬の長」(『漢書食貨史』)と言われ、親しい人達との懇談や職場等の宴席についたしばらくは、その気分で、皆が楽しく和やかに酒を楽しみつつ会話がはずみます。その後酩酊状態の人が現れ、いろいろ変則的な言動を繰り返すようになると、「人、酒を飲み、酒、酒を飲み、酒、人を飲む」(『法華経』)の言葉を思い出すようになります。さらには、パワハラ、セクハラ、アルハラ(アルコール・ハラスメント)、暴力に及んで、同席の他の人に多大な迷惑行為をする人が現れたりします。

 確かに、酒は、主成分であるアルコールの薬理作用により、脳に対する抑制作用が働きます。「一杯飲んで、パッとやりましょう」などと、愉快なひと時をもたらすのは、普段の判断や思考力を幾分抑制して、愉快な気分になれます。ただし、度が過ぎると理性を失って、普段おとなしい人が急に荒れたり暴言を吐いたりするようになるのも確かです。

酒癖の悪い人のイラスト(男性会社員) そして毎日多量の酒を飲むのが長期間続き、「人、酒を飲む」から、「酒、酒を飲む」に移り、まさに「酒におぼれる」日々を送っていると、「酒、人を飲む」状態、すなわち慢性アルコール中毒をきたして、心身の健康を害し、大腸ガンや肝硬変などの病気を招き、寿命を縮めることになります。さらには「酒、人を飲む」状態となるアルコール依存症患者数は、今や100万人を超えるとされています。

 この2月に、厚生労働省は、初の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しました。国がお酒の飲み方を国民に示すことの意味は、やや微妙な点があるようにも思いますが、飲酒に伴う健康リスクについての正しい情報を提供して、皆が酒を楽しく飲み、より健康につなげようとの趣旨と思います。基本は、「酒を何杯飲んだ?」というよりも、「純アルコールで何グラム?」に着目しようとの提案です。

アルコール量20グラム=

ビール中瓶1本=日本酒1合=ウィスキーダブル1杯=ワイングラス2杯=酎ハイ1缶=焼酎グラス半分

 この換算表をいつも思い出しながら、宴席で酒を飲む人は居ないでしょうが、酒の基本知識として頭に入れておくことは必要でしょう。一方、つまみや食事を取りつつ、また水を合間や飲酒後に飲みつつ、楽しく懇談するのが最も現実的で、健康を害さずに酒を長く楽しむコツと思います。

 とりわけ、酒を飲むとき、特にアルコール濃度の濃い日本酒やウィスキー、焼酎を酌み交わす時には、お水も一緒に頼む習慣が大切でしょう。テレビCMでは、俳優の井川 遥さんが「ウィスキーがお好きでしょ」と、笑顔で声掛けしていますが、「お水もお好きでしょ」と語ってくれると良いかとひそかに期待しています。

 


執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
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