落とし穴に落ちる人のイラスト「好事魔多し」と言います。良いことが続いている時に好事魔多しは、思わぬ落とし穴があるものだ、調子のよい時ほど注意が必要だとの古くからの教えです。野球の大リーグで大活躍で、誰からも愛され、突然の結婚発表でさらに幸せの絶頂だった大谷翔平選手。専属通訳の違法賭博という落とし穴が待っていました。

薬のイラスト(錠剤)6 一方、「こうじ」がらみで、小林製薬(大阪市)の「紅麹コレステヘルプ」などのサプリメントで、死亡例を含む健康被害が生じ、社会問題となっています。いまだその原因物質と混入過程の詳細は不明ですが、特定のロットのみに汚染があり、結果、この事態を招き、しかも最初の有害事象の報告から、2カ月余りも放置されていたことから、被害が拡大したことは間違いないようです。しかし、この事件は、この商品だけ、この会社だけの問題ではないのです。

 いわゆる「アベノミクス」の成長戦略の一つとして、2015年に導入された「機能性表示食品」は、みるみるまに市場規模を拡大させ、今や6800製品が、消費者庁に届けられているとのこと。国の審査が必要な「特定保健食品(トクホ)」と異なり、販売する企業自身が安全性と機能性(効能)を届け出るだけで済む分、新たにいろいろな商品が出回り、現在、新聞やテレビのBS放送のコマーシャルなどで、この機能性表示食品を見ない日がないほどです。特保(特定保健用食品)とは? | e-ヘルスネット(厚生労働省)
 一般市民には、従来のトクホと機能性表示食品との区別が、ほとんど明確に理解されていないために、いずれの商品も、国がしっかりとその効果と安全性について審査したうえで販売されていると、誤解されていると思います。

 それぞれの商品には、中高年の持つ健康不安を解消するような惹句が並びます。「悪玉コレステロールを下げる」「L/Hを下げる」「内臓脂肪を減らす」「軽やかに歩ける」「膝の動きをサポートする」「骨密度を高める」など、厳格な国の規則と審査によって、管理されている医薬品とまがうような効能が記載されています。その反面、医薬品には必ず記載されている副作用・有害事象についての記載や注意が明確には示されていないのが現状です。

 「クスリ」を逆に読むと「リスク(危険性)」です。健康を改善させるかのように謳いつつ、そのリスクには触れずに、俳優や元一流スポーツ選手などの著名人の「個人的なコメント」を付して広告を打つ手法が蔓延しています。それらの広告をくまなく読むと、次の文言が誠に小さな文字で記載されています(効能の文字の大きさの10分の1か20分の1以下のサイズなど)。

 「本品は、疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません。」「食生活は主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。」「本品は、事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨を表示するものとして、消費者庁長官に届出されたものです。ただし、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません」などなど・・・。

 つまり、販売している側も、あくまで機能性を「期待」しているレベルであり、決して科学的にそれが実証されているものでもなく、その根拠の弱さがあるがゆえに、著名人の肯定的な感想や推薦するコメントを付しているのでしょう。

 「〇〇〇ヘルプ」などの商品名のサプリメントを「健康のために」服用し続け、結果病気の発生を「ヘルプ」してしまうことのないように、地道に無理のない運動・栄養・睡眠の健康習慣を保つことが間違いのない方法です。
健康法のコツは、「コツコツ」なのです。

 

 

 ちなみにスポーツの分野では、サプリメントの中に、表示されていないドーピング禁止物質が含まれていて、ドーピング違反に問われ、4年間の資格停止(のちに2年間に軽減)処分された日本人男子水泳選手の例があります。こちらも、サプリメントで体調維持をヘルプしようとしていて、競技に出場できなくなるリスクを教えてくれています。

 


執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
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