- 健康医学 面白ゼミナール
- 2025.01.09
学校の健康診断では、必ず座高が計測されていました。2016年4月から学校保健安全法施行規則の一部改正が施行されて(2014年4月公布の文部科学省省令による)、それからは座高の計測は廃止され、からだの発育は身長曲線・体重曲線を積極的に活用することになりました。
では、あの座高は何のために計測していたのでしょうか?いろいろ説があるのですが、徴兵制による身体計測の中で上半身と下半身のバランスを見る、銃座の高さの参考にする、足の短い兵士は良い兵士になる、腸の長いのは健康など、およそ非科学的な説明がなされていたようです。身長から座高の高さを差し引いて、「足の長さを競う」児童生徒の姿もありましたが、それがいじめやからかいの素材となっていた話も伝えられています。
いずれにしても、戦争との関連が強い座高の身体計測の項目が消えたのは良かったと思います。
詩人の谷川俊太郎氏(写真)が、2024年11月に亡くなりました(享年92歳)。父上の哲学者の哲三氏が愛知県知多郡常滑町(現在の常滑市)生まれで、同じ知多郡大府町(現在の大府市)生まれの私としては、勝手に近しさを覚えている偉大な親子です。俊太郎氏の膨大な作品群の中で、私が最も印象深く記憶しているのは、『死んだ男の残したものは』です。第1節の「ひとりの妻とひとりの子ども」から始まり、第6節の「死んだ歴史の残したものは 輝く今日とまた来る明日」と淡々とつづられ、その分戦争への怒りと哀しみが深い詩。医学生時代に、初めて森山良子のコンサートで生でこの歌(作曲;武満 徹)を聞いた印象が、未だに脳に刻まれています。元々は、反戦歌として、ベトナム戦争の最中、1965(昭和40)年に作られたもの。
死んだ男の残したものは 森山良子
現在世界の各地で、今なお戦争が続いています。その担い手の若者の身体が、戦争の道具として扱われ、体格が良いこと、体力に優れていること、健康であることが、「良い兵士」の証とされて戦地に送り出されているのでしょう。かつて、日本でも同じような光景が、全国各地で繰り広げられていたのです。その象徴的な項目が座高であったのなら、誠に哀しい。
執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
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