今や、スマホ(スマートフォン)は、人々の生活になくてはならないほどの生活必需品になってきました。駅の改札機、コンビニエンスストア、スーパーマーケットなどでの支払いや新幹線・飛行機・ホテルの予約などにもごく普通にスマホが使われる世の中になりました。

 電車に乗れば、座席に座っている乗客の大半が頭を前に傾けて、スマホの画面に見入っていたり、パネルを操作したりしています。その光景について、落語家の桂文珍「皆で位牌を拝んでいるようだ」揶揄やゆしていました。

 東京消防庁のデータ(2016~2020年の5年間)によれば、「ながらスマホ」(歩きながら、自転車に乗りながら)により救急搬送された事例が5年間で196人、年平均約39人でした。年齢別では、20歳代が最も多いのですが、中には9歳以下(4人)、80歳代(5人)、90才代(1人)という世代も見られます。


歩きスマホのイラスト「人にぶつかる」 事故の種類別では、「ぶつかる」(40.3%)が最も多く、次いで「ころぶ」(30.6%)、「落ちる」(27.0%)という内訳になっています。ケガの程度は、大半は軽症(86.2%)ですが、12.8%は中等症(生命に危険はないが、入院を要するもの)であり、重症(生命の危険が強い)が1.0%と示されています。

 場所別では、道路交通施設が全体の7割以上を占めており、一般の歩道や駅での事故が一番多く発生していることが分かります。

歩きスマホのイラスト「階段で転ぶ」 歩きスマホをしていて、前方の壁に気づかずに衝突して顔面を強打して眼に受傷したり、段差に気づかず前方に転倒して膝を強打したりといった事例は、枚挙にいとまがないことでしょう。中には、駅のホームで歩きスマホ中に足を踏み外して線路に転落する深刻な事故も起きています。

 2018年7月19日、静岡市の東静岡駅で中学3年生の男子生徒(14歳)がホームの端上を歩きスマホの状態で進んでいて、左足を踏み外して線路に転落し、後方から入線してきた電車と衝突し、電車とホームの間に挟まれて死亡する事故がありました。

 最近でも、都内のある企業に勤める50代後半の、職場では仕事もできるやり手で知られ、部下の信頼も厚い中堅幹部男性の次のような痛ましい事故が起こっています。男性はそろそろ定年(60歳)を意識して、第二の人生をいろいろ計画して準備をしていたとのこと。多忙を極めたある日の夕刻、少しばかり飲酒をしてリラックス気分での帰宅途中、駅の階段を下りている時に歩きスマホの状態で転落。不運なことに頭を強く打ちつけたために、救急車で病院に搬送されましたが、残念ながら亡くなってしまいました。

 第一報を得た、その男性の家族・部下や上司・同僚たちは絶句しつつ、連絡を伝えてくれたスマホの画面を見つめるばかりでした。

 転倒・転落事故の発生要因には3つあり、

(1)内的要因(その人自身の身体的、精神・心理的要因)、
(2)外的要因(環境、施設、設備など)、
(3)行動要因(何をしようとしていたか、何をしていたか)です。

 歩きスマホによる転落・死亡事故は、その人の行動自体が唯一最大の原因なのです。スマホに夢中になって落ち、命を落とすことのないように。

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