テレビの長寿番組の代表格とも言えるテレビ朝日系バラエティー番組『新婚さんいらっしゃい!』(日曜・午後12時55分、ABC朝日放送制作)で、1971年1月31日のスタート以来、51年間司会を務めていた人気落語家・6代目桂文枝かつら ぶんし(2012年「三枝」改め、襲名)が今年の3月27日放送分で勇退することとなりました。

 共に降りる7代目相方、山瀬まみ(初代/江美早苗、2代目/梓みちよ、3代目/ジョーン・シェパード、4代目/片平なぎさ、5代目/岡本夏生、6代目/渡辺美奈代)との息もピッタリで、参加する新婚さん二人から面白い話を引き出す文枝の話術と椅子からける(転落する)反応が大うけで長く続いてきました。

 「1万回くらいけた」とご本人も語っていますが、最近は自身のからだを気遣って回数を控えているようです。面白い話に対して、毎回ける必然性はないのですが、オーバーにからだで反応するというのが、関西お笑い界の芸風の一つなのでしょう。

 しかし、いかに健康で元気とはいえ、後期高齢者(75歳以上)の文枝が椅子から自ら転落する動作はなかなか難しく、場合によっては脊椎の圧迫骨折を起こすリスクがあります。

 かつて、女優の森光子(2012年、92歳没)が舞台『放浪記』(脚本・演出:菊田一夫、1961年から通算2017回上演)の中で、木賃宿(自炊させて泊める安宿。今はこの名称は廃止)で「でんぐり返し」をする場面が有名になりました。『放浪記』は林芙美子の放浪体験を書いた自伝的小説ですが、林の書いた作品が初めて雑誌に掲載された喜びの場面を、森は「でんぐり返し」をすることで全身で表現したのです。初演から約20年、3回していたでんぐり返しを81年からは1回にし、86歳まで続けました。


そして、「でんぐり返しを毎日やっていれば首に負担がかかり、不測の事態になる可能性がある」という制作側(東宝)の意向で、87歳となる2008年1月の公演から「でんぐり返し」は封印され、以降は「万歳三唱」により喜びを表現することになりました。80代後半の女性がでんぐり返しをすれば、骨粗しょう症を基盤とした脊椎の圧迫骨折、それにとどまらず脊髄への損傷をきたすリスクも当然あったわけですから、東宝の決断は極めて当然であったと思います。

 桂文枝のけない決断も、その点で軌を一にするものでしょう。自身が椅子から転がり落ちることは止めても、その分、本業の落語で皆を笑い転がすことに専念していただければ、たくさんの人が幸せになるはずです。「笑う門には福来る」ですから。

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