コロナ禍のため、実際に集まっての対面式のセミナーや勉強会、研究会、学術集会を開催することが容易ではなくなって早2年。いろいろなもどかしさを感じつつも、やむを得ずオンライン方式、ハイブリッド方式での会を準備・運営することが続いていました。

 去る11月15日(月)に、幸いにもコロナ感染者数がやや落ち着いた状況となり、完全な対面式で「転倒予防グッズ開発研究会」(主催:東京健康リハビリテーション総合研究所、協力:日本転倒予防学会身体教育医学研究所身体教育医学研究所うんなん)を学士会館(東京都千代田区)で開催することができました。

 合計44名の参加者、10件の話題提供と活発な議論が行われ、実際に同じ場に居合わせて人と人とが交流することの良さを改めて参加者全員が認識した会となりました。

 その中で、長年の仲間の一人である、一級建築士の中谷俊治氏(中谷俊治ステューディオ/東京都渋谷区)が行った「転倒・転落防止のための住宅リフォーム」についての発表内容が大変興味深く、また今すぐにでもできる工夫が盛りだくさんで、新たな転倒予防対策として優れていると感じました。

 家の中の7つの転倒リスクとそれを解決するアイデアが提示され、その内容は次のようなものでした(以下、中谷氏の発表より)。


①急な階段が危ない!階段から転落する人のイラスト(男性)

→ 階段幅を半分にし、踏板を互い違いにして1段の高さを低くする(ただし、建築基準法で認められていないので新築はできない)。押し入れ程度のスペースにエレベーターを設置する。


②夜中、トイレまで行くのが危ない!二階建ての家の断面図

→ 2階の寝室近くにトイレがない場合でも、SFAポンプ(フランス生まれの排水圧送ポンプ)を使えば、トイレを設置できる(ディスポーザーのように、汚物を粉砕し、圧送するので、5mの高さまで直径20㎜の排水管で流すことができる<SFA JAPAN>)。


ヒートショックのイラスト「お風呂場でふるえる老人」③家の中のヒートショックが危ない!

→ 家の中、すべて同じ温度に保つ全館空調が今は珍しくなくなってきた。特に新築住宅の場合、以前よりもコストを抑えて全館空調が可能になっている。


④浴室の転倒事故を防ぐ!

→ 浴室の床を柔らかくすれば滑りなし。浴室のイラスト(室内風景)
 ex.TOTOユニットバスの「ほっカラリ床」など。

→ 浴槽に後付け手すりを設置。

 ex.「浴槽用手すり」(組み立ても工具も必要のないタイプもの)

→ 自力で入浴が難しい場合は、バスリフトを設置。
 ex.TOTO「バスリフト


防犯用センサーライトのイラスト⑤夜中の真っ暗な廊下や階段が危ない! でも電気のつけっ放しは電気代が……。

→ センサー付きライトを置くだけで、1カ月わずか2円程度のコスト。電池タイプなら電池交換は約1年ごと。


パソコンのケーブルに足を引っ掛けた人のイラスト⑥電気のコードに足が引っかかる!

→ 電気ポットのコードのようにポンと外れるコンセント。
 ex.Panasonicコスモシリーズ「マグネットコンセント


⑦家の中のちょっとした段差が危ない!

→ 段差解消スロープ/ハサミでカットできるタイプのものを用意し、両面テープで貼る。


 家の中の転倒・転落事故で、高齢者が救急搬送される例は枚挙にいとまがありません。ぬ・か・づけ(日本転倒予防学会提唱)という標語にあるように、れているところ、いだん・段差、片づけていないところは、転倒・転落を起こしやすく、脚の骨折や頭の大ケガをきたす結果をもたらしやすいのです。

 そうした事故を予防するために、家屋内の構造を改良したり、ひと工夫してリスクを軽減したりすることが大切です。専門業者によるリフォーム工事が必要な箇所もあるかもしれませんが、DIY(Do It Yourself)専門のホームセンターやネット販売で容易に入手して、簡単に設置できる役立つ物品も増えています。ご自身で工作・修繕をすることで(DIY)、家族の転倒・転落を予防できるのであれば、考えてみる価値はあると思います。

 中谷建築士のお話は、研究会に参加した医師、大学研究者、企業の開発担当者だけでなく、多くの人に対して転倒・転落予防に関する大きなヒントを与えてくれました。

 人が集えば、何か新しい知恵や面白いことが生まれることを改めて知らせてくれた機会となりました。

転倒予防 面白ゼミナール Archive