著書100冊目となる『スポーツ医学を志す君たちへ』(南江堂)が完成しました。6月1日全国発売となります。これまでの45年間のスポーツ医学に関わる様々な活動のエッセンスと自身の活動の物語を凝縮した集大成の書籍となりました。

 その「第6章 超高齢社会にもスポーツ医学を」の中で、「高齢者の転倒予防」について論じました。

 日本初の「転倒予防教室」を旧 東京厚生年金病院(現 JCHO東京新宿メディカルセンター)で1997年12月1日から12年間運営しましたが、これは実は、スポーツ医学の重要な課題の一つである運動処方(メディカルチェック+運動プログラム)の原理に即して組み立てられたものです。

 つまり、参加者の高齢者の健康診断(内科的・整形外科診察と検査)と体力・運動能力評価(健脚度Rを主体とする)により、「運動可」を確認すると共に、医学的注意事項がないかどうかを点検した上で、実際の運動プログラムを行います。そして、8週間(後に12週間)後に、その運動効果を確認して、全体の組み立ての改善につなげるという流れで、この教室は運営されていました。

 個々の身体的特性に即した運動の質(種類)と量(強度・時間・頻度)を決めて実際の運動を処方し、起き得る運動中の事故予防を図るべく、医療体制を整えて体力測定・評価と運動を実践するという図式です。

 この「教室」の実践のポイントは、「無理なく楽しく30年」の標語に象徴される和やかで笑顔があふれる指導と内容、声かけ、サポートでした。運動が必ずしも得意でない高齢者や「体育は大嫌い!」と率直に述べる、特に女性高齢者も居ましたが、和やかで笑顔があふれる運動指導により、自然とからだを動かすことが楽しいものだ、自分でもこれだけできるという安心感と自信が生まれると、「また来たくなる」思いが生まれていたようでした。

 こうした「教室」での運動・生活指導の結果、1年間に転倒する経験は1/2に減少し、骨折する人は1/3に減少することがわかりました。

 そうした生活と注意を、高齢者にいかに持続していただくかが大きな課題ですが、「転倒予防教室」は、スポーツ医学の介護予防への応用の一つとして、その効果の確かさと共にスポーツ医学の幅広さを社会に示すことができるのです。

 

スポーツ医学を志す君たちへ(南江堂,2021年6月1日刊)

水泳日本チームドクター、日本整形外科スポーツ医学会会長等を歴任した著者が、スポーツ医・スポーツトレーナーを目指す若手に語るスポーツ医学の入門書。水泳をはじめ武道・舞台芸術をも含むスポーツ障害・外傷・事故の予防から、子どもの発達と運動の関係,超高齢社会におけるスポーツ医学の応用としての転倒予防・介護予防、スポーツ・コンプライアンスまで、スポーツ医学の多面的な内容を解説する.著者45年間の実践の集大成。

 この書のカバーは、オビつきの状態では、若草色のオビからイラストの一部が上にはみ出していますが、オビを外した状態にすると、はみ出していた部分が、別のイラストの一部になっています。(イラストは久保谷智子さん)

オビつきの状態

オビを外した状態

 

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