- 転倒予防 面白ゼミナール
- 2022.09.06
「喜劇王」と称されたサー・チャールズ・スペンサー・チャップリン(1977年、88歳没)は、英国の映画俳優、映画監督、脚本家、映画プロデューサーとして、一世を風靡した映画史に深く刻まれた人物です。特に、山高帽に大きなドタ靴、ちょび髭にステッキといういでたちの「小さな放浪者」の姿・振る舞いは、世界中の人々の笑いと哀愁を誘いました。
その名を店名に冠して、日本初のステッキ専門店「ステッキのチャップリン(チャップリン協会から正式なライセンスを取得)」を開き、ステッキ(杖)の普及と啓発に努めてきたのが、山田澄代さんです。
転倒予防医学研究会(2004年発足、現在の日本転倒予防学会)時代からの転倒予防仲間の一人です。
医学・医療の世界では「予防に勝る治療はない(Prevention is better than cure.)」とされ、病気や障害の診断・治療が重要なのは言うまでもありませんが、病気や障害に至る前の予防を図ることが最良の治療だという意味です。そして、同じ意味で用いられるのが、「転ばぬ先の杖」なのです。
つまり、転倒予防の極みは、転ぶ前に杖をうまく使うことです。この「杖」には、ハードとしての杖とソフトとしての杖、すなわち「知恵」も含まれています。筆者が一般市民向けの講演のタイトルとして用いる「転ばぬ先の杖と知恵」は、そうした趣旨が込められています。
山田澄代さんが最近上梓した『山田澄代の杖ワンダーランド』(朝日新聞出版、2022年4月発刊)には、彼女が40年以上かけて、コツコツと収集してきた約1000本の杖の中から700本あまりが収載されています。
ご自身が子どもの頃にポリオに罹患して、左半身に後遺症が残り、転倒・骨折・入院を幾度となく繰り返した経験から、杖の大切さと共に杖の社会的・芸術的価値、そして用途の多様性を見いだし、独創的な杖や付属品を数多く開発してきた歴史が、下記の章立ての中の随所に見て取れます。
第1章 日本、世界、杖をめぐる物語
第2章 さまざまなモチーフと素材
第3章 仕込み杖の世界
杖の基本情報
本書によれば、「ダンディ」はサンスクリット語で「杖を持つ人」の意味(杖はサンスクリット語で「ダンダ」)であることを初めて教えられましたが、「杖はからだを支え、心をささえる大切な存在」という語りかけも、深い味わいがあります。
現在、転倒予防の立場から、書籍『杖の医学百科 -転倒予防ガイド-』(仮題)を仲間の医師・理学療法士らと企画・構想中ですが、山田澄代さんの著書がその執筆・編集作業にあたっての「杖」になるように感じています。