ヒトの骨盤は、とても大切な役割を果たしています。骨盤(pelvis)は、ラテン語の「洗面器、小鉢」という意味です。その名の通り、骨格標本や解剖図解などを見ると「底の抜けた容器」のような形をしています。骨盤を成す骨は、寛骨(①腸骨、②恥骨、③坐骨で作られる一つの大きな骨)、④仙骨、⑤尾骨で構成されています。体重を支え、胴体と下肢を連結させ、その中の臓器を保護すると共に、女性では分娩の時の産道となる大切な機能も備えられています。そのため、女性の骨盤は、男性の骨盤に比べて広く浅いのが特徴です。

『腰痛のサイン・鈍重感を見逃すな!』2019,論創社より引用して改変)


さて、仙骨(sacrum)は、逆三角形をしていて、腰椎に連なる脊椎の一部で、さらにその下の尾骨に連なります。左右の寛骨にしっかりと結びついているため、安定しています。元々は4~5個の仙椎に分かれていたものが、大人になると融合して一つの仙骨となっているのですが、この「仙骨」がどこにあるかをすぐに、指し示すことができる人はあまり多くないでしょう。

尻もちのイラスト(女性) 俳優の菊池桃子さん(54歳)が、8月4日、自宅で転倒し、「仙骨を骨折」して入院治療を受けることになったとニュースになっていました。幸い、手術は必要ないようです。菊地さんは高齢者の年代ではないので、転倒で骨折したということであれば、他の健康上の要因が加わって、骨が折れた状態になったのかもしれません。おそらく、自宅で滑るか落ちるという状況から尻もちをつくように後方に転び、骨盤部を強く床面に打ち付けたのでしょう。

 近年、超高齢社会となった現状を反映して、高齢者(特に80代以上)の転倒による骨盤骨折が増加しています。実は、仙骨骨折は通常のX線写真ではなかなか診断することが難しく、MRI(磁気共鳴画像診断装置)CT(コンピューター断層撮影法)で検査確認して、初めて骨折しているかどうかの診断ができる例も少なくないのです。

 元々、仙骨には空洞部分がありますが(特に女性は多い)、骨粗しょう症を有していると、さらに空洞が大きくなり折れやすくなってしまいます。したがって、仙骨骨折の治療には、安静・臥床の他、骨を作る作用のある副甲状腺ホルモンの投与など、骨粗しょう症の治療も行うことが求められる例が多いのです。

 仙骨は、英語ではholy bone、ほかの言語でも同様に、「神聖な」という意味が込められているようです。転んで神聖な骨を折ることのないよう、不老不死の「仙」人とはいかないまでも、高齢になっても元気で活動を続けたいものです。

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