アドルフ・ヒトラー(1945年、56歳没)は、ナチス・ドイツの独裁政治家で、第二次世界大戦とホロコースト(大虐殺)を起こした歴史上の人物です。実は、パーキンソン病であることが知られています。

 パーキンソン病は、我が国では難病に指定されている神経変性疾患の一つですが、手足のふるえ(振動)、動作が少なく遅くなり(無動)、筋肉がこわばり手足が動かしにくくなる(筋強剛)などの症状が現われ、転びやすくなるのが特徴です。

 ヒトラーがパーキンソン病の症状をきたし、年々それらが増悪していく様子、安静時の手のふるえの増強やそれを防ぐために左手にメガネを持つなどで工夫をしていたこと、書く文字が小さくなっていったこと、症状を減らすために興奮薬を常用していたことなどのエピソードが伝えられています。

(眼鏡を触るヒトラー:映画『ヒトラー最期の12日間』Blue-Lay Clipより)

 

 仮面様顔貌や小字症などの症状も現われますが、パーキンソン病の人(50代以上に多い)は、「転びやすい」のが大きな特徴であり、その予防を図るには、次に記すようなパーキンソン病の転倒の特徴を知っておくことが必要です。(引用図書2 より)

①歩き始めに足がすくんで、前のめりに転倒 ②座位で体が傾き、イスから転倒 ③小さな段差につまずき転倒
転ぶ子供のイラスト つまづいた男性のイラスト
④立ち上がった時に血圧が下がり、ふらついて転倒 ⑤布団をしこうとして布団を持って後方へ移動し尻もち
めまいを起こしている人のイラスト 尻もちのイラスト(お婆さん)

  ①歩き始めに足がすくんで、前のめりに転倒

  ②座位で体が傾き、イスから転倒

  ③小さな段差につまずき転倒

  ④立ち上がった特に血圧が下がり、ふらついて転倒

  ⑤布団をしこうとして布団を持って後方へ移動し尻もち

 

 こうした特徴的な転倒の仕方を知って、パーキンソン病に即した転倒予防法を実践することが求められます。

 

  ① → キュー(手がかり、きっかけ)と利用環境整備

  ② → 背もたれ肘掛けのあるイス

  ③ → 段差の解消か段差を目立たせる

  ④ → 起立性低血圧への対応

  ⑤ → 二重課題(二つの動作・課題を同時に行うこと)を避ける

 

 パーキンソン病の人の60%が転倒の経験があると言われています。病気そのものの不自由に加えて、転倒による骨折などのケガにより、さらにつらく苦しい日々を過ごすことを極力避けるために、パーキンソン病の転倒予防のポイントを普及啓発することが必要です。

 ちなみに、ヒトラーの転倒の記録の史料はまだ見たことはありませんが、ヒトラーがパーキンソン病でなかったら、世界の歴史は大きく変わり、世界大戦という形の「時代の転倒」が生ずることはなかったのかもしれません。

〈引用・参考図書〉

1.
小長谷正明:『ヒトラーの震え、毛沢東の握り足―神経内科からみた20世紀―』(
小長谷正明著, 中央公論新社(中公新書), 1999年)

2.
饗場郁子, 鮫島直之, 武藤芳照 編著:『神経疾患患者の転倒予防マニュアル
p36-40,パーキンソン病(およびパーキンソン症候群), 新興医学出版社, 2021年

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