坂本龍馬の似顔絵イラスト 幕末の志士で時代の架け橋となり、司馬遼太郎の小説『竜馬がゆく』などに活写された坂本龍馬が残したとされる和歌、「丸くとも、一かどあれや人心、あまりまろきは、ころびやすきぞ」(一休禅師の言葉の作ともされる)。人は温厚円満な性格であることは良いことですが、自分の明確な意志や考えがなく、周りの状況や他人の意見に左右されてばかりいると、結局失敗(転ぶ)することがあるという意味です。

 実は、「あまりまろき」の肥満の人は転びやすいのです。かつて、私たちの研究グループが厚生労働省の長寿科学総合研究事業の一環として行った島根県と長野県での中高年者を対象とした疫学調査で、転倒しやすいからだの特徴を調査したことがあります。
 その結果、BMI(Body Mass Index)=体格指数:〔体重(kg)〕÷〔身長(m)の2乗〕の大きい人、ウエストやヒップが大きい人、血液中の善玉(HLD)コレステロール値が低い人のほうが、転倒経験の回数が多いことが分かりました。

 つまり、運動不足と過食が続き、肥満の程度の高い人は、体内の脂肪が多く蓄積し、その一方で、筋肉量が少なくなって筋力・脚力ともに弱くなり転びやすくなります。とりわけ「りんご型肥満」「(ウエスト・ピップ比が男性で1.0以上、女性で0.9以上)では、からだの重心の位置が高くなり、バランス能力が低下していると考えられ、「肥満ゆえに転ぶ」リ
スクが高くなります。

 こうした調査結果から、中高年の転倒を生活習慣病の一つとしてとらえることができ、もしそうであるならば、健康診断と体力・運動能力評価を元にした適切な運動処方により、予防が可能という論理が生み出され、「転倒予防教室」(旧・東京厚生年金病院/現・JCHO東京新宿メディカルセンターにて1997年から12年間稼働)が企画・運営されたのです。

 最近の「高齢者の肥満・肥満症」に関する研究論文にも、高齢者の肥満・肥満症は転倒と関連することやサルコぺニア肥満(脂肪量の増加と骨格筋量の低値が共に存在する状態)では、転倒による骨折などのリスクが高いことが指摘されています。


サルコペニア肥満

 とはいえ、高齢者が肥満を解消しようと急激な減量や過度な運動・スポーツを継続すれば、かえって健康を害したり、運動中に転倒するような事態になりかねません。無理なく、ゆっくりと時間をかけて、体重を落とし、筋力を保つような習慣と心構えが大切でしょう。

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