「危機管理」という言葉は、初代内閣安全保保障室長を務めた佐々さっさ淳之あつゆき(2018年、87歳没)が創ったとされています。今では、社会全般、企業、学校、医療機関等、様々な分野で日常的に使われています。

 この危機管理には、2つの事柄が含まれています。危機的事象について、その発生を予測してリスク要因を低減するように事前に対応すること(リスク・マネジメント)と、危機的事象が発生してから事後対応すること(クライシス・マネジメント)の2種類です。

リスク・
マネジメント
危機的事象の発生を予測してリスク要因を低減するように事前に対応すること
クライシス・
マネジメント
危機的事象が発生してから事後対応すること

 

 病院内や高齢者施設では、転倒・転落事故は、ほぼ日常的に発生する危機事象と位置付けられており、医療安全の立場からも、重要な解決すべき課題とされてきました。特に、看護の分野・領域から転倒・転落防止のためのリスク・マネジメントの取り組みは広く実践・工夫されており、様々なリスク評価の方法が考案され、活用されてきた歴史があります。

 日本転倒予防学会では、2016年に「転倒・転落アセスメントツール検討委員会(委員長/鈴木みずえ副理事長・浜松医大教授)を発足し、4年間の調査研究・検討作業を経て、先般「転倒・転落アセスメントツールに関する提言」にまとめ、公表しました(『日本転倒予防学会誌』第7巻、第3号:pp49-57、2021年に所収)。

「転倒・転落アセスメントツール」とは、病院や高齢者施設で起こり得る高齢者の転倒・転落の危険度を事前評価し、それを予測して、事故を予防するための評価表のことを言います。

 委員会は、看護、理学療法、危機管理の専門家、教育研究者9名で、Aグループ(研究面)、Bグループ(急性期病院)、Cグループ(高齢者施設)に分かれて、それぞれ幅広くかつ深く調査研究・検討活動を重ねて、提言を下記の6つに集約しました。

 

提言1
 転倒・転落アセスメントツールは、「スクリーニング」、「精査」、「対策導出」の3つの目的に大別される。特に病院の転倒・転落アセスメントツールは、スクリーニングとしてハイリスク者の選別を行い、さらに多職種で共有して「精査」、「対策導出」を行う等使用目的・特徴・限界を把握した上で使用する。

 

提言2
学術団体は、転倒・転落アセスメントツールの運用ガイドライン整備や開発・評価・研究のためのデータ蓄積について取り組む。

 

提言3
病院は、変化する転倒・転落リスクに対して、転倒・転落アセスメントツールでスクリーニングし、そのリスクについて関連する専門職種が精査し、多職種で対策を立案して転倒・転落予防に取り組む。

 

提言4
病院は、病院組織全体で転倒・転落の対策を導出するための組織整備を行い、一体となって転倒・転落予防に取り組む。

 

提言5
高齢者施設は、転倒・転落アセスメントツールを入所時にスクリーニング及びスタッフの転倒・転落リスク感性を育成するために活用する。

 

提言6
高齢者施設は、転倒・転落アセスメントツールを、高齢者が生活する中で異なる個々のニーズや行動の変化を包括的に捉えた多職種の「精査」の手段として位置付けて、転倒・転落リスク・マネジメントの体制整備を行う。

2020年7月18日 日本転倒予防学会

 

 病院、高齢者施設、学術団体において、それぞれの立場から、この提言に示された内容を理解していただき、高齢者の転倒・転落事故が、1件でも減らせるように役立てていただきたいと願うばかりです。

 

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