Dr.ムトーのショート・コラム

 

#34『ノーベル化学賞と右手・左手』


 2026年のノーベル化学賞に、硤合そあい憲三けんそう東京理科大名誉教授の受賞が決まった。生命の起源の解明につながる重要な基礎研究と評価されたアミノ酸の構造に関する長年の研究成果だ。「暗いところでヘッドライトをつけて地面をずっとたどっていく」かのような純粋な疑問に基づく実に息の長い研究である点が素晴らしい。

 人には、右手利きと左手利きがあって、古今東西10人に一人が左手利きであり、これは左右の脳の機能との関連からくる人類の特性の一つとされている。

 生物を形づくるタンパク質の元となるアミノ酸にも、構造が異なる右手型と左手型とがあり、生物が利用しているアミノ酸はすべて左手型だ。その謎に挑み続けた硤合さんの研究だ。「右手と左手は、手のひら同士はぴたりと合うが、手の甲側と手のひら側を重ねると指の位置がずれる。」(毎日新聞、2026年10月12日、永山悦子論説委員による「月議」:「硤合反応と小惑星」より)。こうした同じ構成要素にもかかわらず立体的な向きが異なるアミノ酸の特性が、今回の受賞研究の中核だろう。

 「タイパ(タイムパーフォーマンス)」とか「コスパ(コストパーフォーマンス)」という流行語に象徴されるように、短期間でことを為すのが良いような時流になっているが、こうした「ぢつと手を見る」(石川啄木「一握の砂」より)活動も大切なのだと教えてくれている。


執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
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