Dr.ムトーのショート・コラ

 

#28『現代鬼畜考


 鬼畜―松本清張短編全集〈7〉かつて太平洋戦争(1941~1945年)の時代、大日本帝国が交戦国の米国(アメリカ合衆国)と英国(イギリス)を、「鬼畜」(非道な行為をする人間)に値するという意味で使われたのが、「鬼畜米英」の言葉だった。そして松本清張が、検事から聞いた話に基づいたフィクションとして、1957年に公表した短編小説が、『鬼畜』だ。1978年に松竹で映画化され(監督:野村芳太郎)、主演の緒形拳は、多くの映画賞を受賞した。その後、テレビドラマ化もされた(2002年日本テレビ:ビートたけし主演、2017年テレビ朝日:玉木 宏主演)。
 地方で印刷屋を営む気の弱い主人公が、商売が順調な時期に料理屋の女中と親しくなり、3人の子ができた。印刷会社の進出や火事のため苦境に陥り、その女性が子どもを連れて男の自宅に現れ、3人を置いていく。夫婦の間には子がない妻は、3人を虐待し、「始末」を男に迫る。次男は衰弱死、長女は東京タワーに置き去り、そして長男を海に落とすという鬼畜ぶりが描かれる。
 そして、現代。京都南丹市の11歳の小学生男児は、養父に殺害され遺棄されたとされる事件が起きた。「畜」と表現される動物の親は、我が子を本能で養育し、保護し、その子が危機に陥った時には、我が身を顧みず必死になって救おうとする。
 動物たちから見たら、鬼畜の言葉に組み入れられるのは、誠に不本意だろう。

 


執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
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