間もなく「夏の甲子園」(全国高校野球選手権)がやってくる。また、数多くの人間ドラマを見せてくれることだろう。

 先般の地方予選の一つ西東京大会に、青い鳥が羽ばたいた。知的障害のある生徒が通う東京都立青鳥せいちょう特別支援学校(東京都世田谷区)が、全国で初めて単独チームで出場した。結果は、0対66の5回コールド負け。ただし、「唯一のヒット」「4つの空振り三振」など、殊勲のプレーも見られ、観客からは、大きな拍手があったという。また、手加減なしで、全力で対戦した相手チーム(東村山西高校)の態度も立派だ。健全なスポーツを通して、人が輝く姿・光景を、改めて社会に示してくれた。

修学旅行のイラスト「バス移動」 かつて、大学院学生の頃、非常勤の整形外科医として、愛知県の第2青い鳥あおいとり学園(岡崎市:現三河青い鳥医療療育センター)に、勤めていた。肢体不自由児の療育の補佐をしていたが、ある時遠足に同行した。バスに揺られて目的地に向かう途中、車内はさながら歌合戦の様相を呈していた。

 バスガイドさんが一曲歌ってくれた後、その時代に大流行していた『およげ!たいやきくん』(作詞:高田ひろし、作曲:佐瀬寿一、唄:子門真人、日本で最も多く売れたシングル盤、1975年発売)を、何回も何回も皆が歌った。軽快なリズムと「タイ焼きが逃げ出して海で泳ぐ」という童話のような歌詞・物語は、大いに子どもたちの心をひきつけていたようだ。

 脳性麻痺のため下半身の障害があり、普段は両松葉杖と装具をつけて生活している男子が、マイクを握るや実に嬉しそうに、両肩を揺らして大きな声で歌っていたのを今も覚えている。皆、歌に合わせて笑顔で楽しくからだ全体を動かしていた。

 障害のある子どもたちが、運動・体育・スポーツを制限されて、その機会さえも与えられないまま、「できないから!」とみなされている例は、多い。人は等しくからだを動かして自分を表現する権利を有している。その動かし方や動きの大きさ・表情は、それぞれ違う。そのこと理解して、まずは共に運動・スポーツを行う機会と場を確保する取り組みが大切だろう。

 今回の高校野球の実例は、これから甲子園をめざす生徒たちばかりでなく、障害のある子どもたち、その家族、教育・スポーツ関係者の心の中に、大きくて美しい青い鳥を羽ばたかせてくれたように思う。

 「動く喜び 動ける幸せ」
公益財団法人運動器の健康・日本協会の標語)

 


執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
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