Dr.ムトーのショート・コラ

 

#31『是非に及ばず


 「是非に及ばず」とは、日常会話で用いることはほとんどないが、時代劇の映画やテレビドラマで「本能寺の変」(1582年6月2日早朝)で、重臣明智光秀に急襲された織田信長が自害する際に最後に口にした言葉とされて描かれる。その意味は、「仕方ない、やむを得ない」であるが、あきらめとは幾分違い、達観や覚悟を決めた潔さや力強さが表現されているように思う。

 2026年7月12日(日)に放映されたNHKテレビ大河ドラマの『豊臣兄弟』では、小栗 旬演ずる信長(好演)が、炎上する本能寺の中でこの言葉を吐く。
現代において、いろいろな場面で苦境に立たされた時、その原因や責任を他者や組織に押し付けたりして、誠に見苦しい振る舞いをするリーダーと呼ばれる人々が居るが、この言葉に集約される凛々しさは、大切と思う。

 一方、信長が好んで舞ったとされる幸若舞の『敦盛』。「人間五十年 下天の内にくらぶれば、夢まぼろしのごとくなり」と謳われるが、「人間」は、本来は「じんかん」(人の世、この世、人間界の意味)と読むが、現在では、誤読の「にんげん」と読まれることが多くなっている。「この世はわずか五十年、天上世界に比べれば夢や幻のように儚いものだ」という意味だ。この頃の人の寿命が50年という意味ではない。1582年当時の日本人の平均寿命は、30~40歳前後と推測されている。

 いずれにしても、本能寺の変で享年49歳(満48歳)で死去した信長の生きざまは、数々の残虐非道な行為を行った歴史的事実はあるものの、「人生100年時代」の今だからこそ学ぶことも多いように思う。

(イラスト:Google Geminiで作成)

 


執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
詳しいプロフィール

Dr.ムトーのショート・コラム Archive