米国のドナルド・トランプ大統領(78歳、身長191センチ・体重102キロ)の一挙手一投足が即座に世界に流れ、その発言が株価を大きく変動させるという異常事態が続いています。健康診断の結果は、「極めて良好」とのことです。

 「フェイク・ニュース」という言葉を用いて、自分にとって都合の悪い事実について隠そうとしたり、ごまかそうとしたりする行為が目立ち、かつての太平洋戦争当時の「大本営」によるでたらめな戦果の発表に似ているように感じています。

 アレクサンダー大王カール大帝フビライ・ハンヘンリー8世ナポレオンチャーチルなど歴史に名を刻む王や政治家は、痛風で悩まされたことが良く知られています。そのため、痛風のことは「王様の病気」とか「ぜいたく病」と呼ばれています。トランプ大統領が痛風の発作に悩まされ、脚を引きずっている姿は見たことはないので、きっと痛風持ちではないのでしょう。

 ニュースのフェイクがあるように、痛風にもフェイクがあります。「偽痛風(ぎつうふう)」という病気です。痛風も偽痛風も、関節の中に結晶が沈着して激しい痛みと腫れを起こすのは共通していますが、結晶の種類が違います。痛風は、尿酸の結晶偽痛風ではピロリン酸カルシウム(CPPD)の結晶が原因となります。

  痛風は、30代から60代の成人男性に圧倒的に多い病気ですが、偽痛風は、男女に関わらず(どちらかと言えばやや女性に多い)、60代以上の中高年者に見られます。痛風の発作は、足の親指や足首に起こるのが典型的ですが、偽痛風の症状は、より大きな関節の膝関節に最も多く起きます。他にも、手関節、足関節、肘関節、肩関節、股関節でも発生することがあります。

 典型的には、膝が突然激しく痛み、赤く腫れ、熱を持ち、歩くのが困難になります。化膿性関節炎でも、よく似た症状を呈するので、注意が必要です。診断は、X線検査で石灰化像を認めたり、関節穿刺をして関節液を取りCPPDの結晶を確認することで行います。

 痛風のように、尿酸を下げるという特異的な治療を行うことはなく、通常は鎮痛消炎剤を服用し、痛んだ関節を冷却し安静にしていれば自然に軽快します。時には、関節内にステロイド注射をすることもあります。また、症状が強い場合には、入院安静が必要な例もありますが、一般的には経過は良好です。

 情報のフェイクは困ったものですが、偽痛風という病気の情報を正しく知っていることで、適切に対処できればと思います。


執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
詳しいプロフィール

健康医学 面白ゼミナール Archive