俳優・タレント・歌手として、映画『釣りバカ日誌』シリーズ『陽はまた昇る』、テレビドラマ『おんな太閤記』『翔ぶが如く』『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』など、数多くの役をこなして人気を博していた西田敏行さんが、先般亡くなった(2024年10月、76歳没)。ピアノを弾く猫のイラストハマちゃん、秀吉、西郷隆盛、蛭間病院長等の個性的な役柄を我がものとして見事に演じ切っていた名優でした。そして、歌手としては、大ヒットし、日本レコード大賞金賞も受賞した『もしもピアノが弾けたなら』(阿久 悠作詞、坂田晃一作曲、1981年)は、ごく普通の中年男性のささやかな夢と願いを切なく温かく表現して、人々を魅了しました。

 「たら・れば」は、スポーツや勝負の世界では禁句ですが、どうしても強調したいこともあります。
 2019年、東京・池袋での乗用車暴走事故で親子が亡くなりました。高齢ドライバー(当時87歳)運転の車が横断歩道に突っ込み、母親と3歳の長女が犠牲になりました。当初、「車の不具合のせいだ」などと無理な主張をしていた加害者でしたが、アクセルとブレーキを踏み間違えたとして過失致死傷の罪で、禁固5年の実刑判決を受け、そしてこの10月、93歳で、収容先の刑務所で老衰のために死亡したそうです。

高齢者の車の事故のイラスト 高齢ドライバー(特に男性)には、家族がこうした悲惨な交通事故発生の懸念から、「もう車の運転は止めて」と幾度も幾度もお願いしても、ハンドルを離さない場合が多いのです。曰く、「俺は、大丈夫だから」「私は運転がうまいから」「車がなくなると不便だから」・・・。
 元々、人は誰でも老齢になるほど、頭で考えてできると認知していることと、実際に可能なことに大きなギャップがあるのが特性です。年齢を長ずれば長ずるほど、そのギャップはさらに大きくなります。そのことを日々認識して、日常生活で留意しつつ活動していれば、車の事故を引き起こして他者に大ケガを負わせたり命を奪うなどもなく、自己転倒などで自身が脚の骨折などのケガをすることもないのです。

交差点お年寄り 車の運転中に、正しく急ブレーキを踏まなければならない緊急事態に、間違ってアクセルを踏み、「これはいけない」と思って、さらにブレーキのつもりでアクセルを強く踏み暴走する。横断歩道を、点滅している青信号の間にわたり切れると認知して、急ぎ足で進んでいて、ついに間に合わなくなって、慌てて転倒する。このくらいの段差なら、簡単に乗り越えられると思っていて、実際に跨ごうとして、うまく越えられずにつまづくなど、自己の身体能力と認知力の低下を正しく評価できることは、とても大切な事故予防のポイントなのです。

 高齢のお父さんが、もしも車をすてたなら、その家族の心配も大いに減るのですが。

 


執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
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