国連のアントニオ・グテーレス事務総長が、「地球沸騰化 global boiling」という表現を提示して、現在の世界の気象状況が、「地球温暖化 global warming」のレベルを超える暑さであることに警鐘を鳴らしました。実際、今夏の日本でも40°Cを超える地域が昨夏よりも増加し、熱中症疑いで救急搬送される事例も急増しました。

野球場のイラスト(背景素材) 「夏の甲子園」(全国高校野球選手権大会、地方大会を含む)でも、近年、様々な選手らの健康管理・事故防止対策が具体化されてきました。「タイブレーク」方式の導入、「継続試合」の採用、5回終了後に選手らが水分補給する「クーリングタイム」が採用されています。さらに今夏の甲子園では、序盤の3日間、午前と夕方に分けて試合を行う「2部制」も導入しました。

 実際に大会中に熱中症が疑われた事例は、昨年よりも多い56名と報告されました。来年の8月は、今夏よりも厳しい暑さが大いに予測されます。万一、甲子園の大会中に熱中症により最悪の事態が生まれることが有れば、100年の歴史を誇る甲子園の野球の信頼は急落することでしょう。それは、野球にとどまらず、青少年の健全なスポーツ全体の普及・振興を損なう結果を生むでしょう。

救急車のイラスト(斜め) まずは、スポーツ医学の重大事故予防の原則からすれば、今夏及び過去5年余りの大会中の熱中症疑いの事例一覧表を作成し、その発生要因を分析すること。選手ばかりでなく、コーチ・監督、審判、応援団、一般の観客、報道陣、球場関係者の事例も収集して、それぞれの内的要因・外的要因・行動要因を検討することが、具体的な予防対策を講ずるのに役立つでしょう。とりわけ、救急搬送された事例については、詳細な発生状況の聴取が必要と考えられます。

 次いで、甲子園関係者(医療支援に協力してきた医師や理学療法士等を含む)、各都道府県高校野球連盟役員、並びに選手・コーチ・監督・マネージャーらに、熱中症の発生と予防対策に関するアンケート調査を行い、皆で予防対策を構築する意識を高めつつ、来夏の大会に向けて具体的な対策を探ること。

野球のイラスト「ホームランを打ったバッター」 そして、「7回制」導入の可能性や解決すべき課題についても、これらの一連の流れの中で、選手らの意志と心情を基盤にして、真摯に議論すること。

 こうした丁寧な手続きを関係者皆で進めることで、今の状況を着実に改善・前進させる努力が求められているのです。


執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
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