- 著作を語る
- 2021.11.30
<武藤所長 著作を語る>
#30『変形性膝関節症の運動・生活ガイド -運動療法と日常活動の手引き-』
日本医事新報社 1997年
・監修:厚生省長寿科学総合研究事業・変形性膝関節症及び変形性脊椎症の疫学、予防、治療に関する研究班
・編集:杉岡洋一、武藤芳照、伊藤晴夫、
・発行:日本医事新報社、1997年
・サイズ:B5判・98P
・ISBN :
本書は、監修者の名にあるように、厚生労働省の科学研究費・長寿科学総合研究事業「変形性膝関節症及び変形性脊椎症の疫学、予防、治療に関する研究班」の研究事業の一環として制作された教育・啓発冊子を基盤にして企画・構成・制作された。
当初の主任研究者は、当時九州大学整形外科教授の杉岡洋一先生であったが、その後、同大医学部長を経て九州大学総長に就任されたことから、福岡大学緒方公介教授が後任の主任研究者となった。
この立ち上げ当初の研究班の第1回の会議が、都内高田馬場のホテルの1室で開催されたが、その折に、杉岡洋一先生より紹介されたのが高杉紳一郎医師(現・佐賀整肢学園こども発達医療センター副院長)であった。その場には、当時、スポーツ医学研修のために札幌医大整形外科学教室より東京大学の私の研究室に来て研究員として活動していた太田(現・福島)美穂医師も同席していた。その出会いが、それ以後、スポーツ医学に関わる様々な活動を三者で共にしていく出発点となる出会いであったことを懐かしく記憶している。
本書の「はしがき」には、こう記されている。
《変形性膝関節症は、それのみで死に至るような重篤な病気ではありませんが、患者さんにとっては、生活動作が制約され、社会的活動が限定され、「自分のしたいことが思うようにできない」など、QOL(人生の質、生活の豊かさ)の低下は著しいものがあります。
………………………(中略)………………………
10年以上も水中運動療法を継続してきた変形性膝関節症の患者さんのグループに運動の効果を問うたところ、もっとも多かった回答は、『人生の希望がわいてきた』でありました。》
つまり、膝のみを診るという姿勢ではなく、その人の人生をも見据えて、生活や運動に関わる医学的指導を伝えようという基本理念が貫かれた啓発書として、様々な工夫がこらされている。
構成は、33の質問に対する回答・解説で組み立てられており、巻末資料には、
1.水中運動、水泳実施上の注意点
2.筋力増強トレーニング
3.ストレッチング
が、豊富な図・写真と共に紹介されており、今でも十分に活用できる内容となっている。
たとえば、
「水中運動、水泳の実施方法で、上半身をまっすぐあるいは反らしての前歩き」
⇒ 腰痛をきたす可能性がある。
⇒ 予防対策:上半身を前にかがめ、背中を丸めての前歩き
ナンバ歩行(右腕-右脚、左腕-左脚)を用いるのもよい
このように、実際の医学的指導に役立つ間違った方法と中高年に適した水中運動、水泳の方法を記載して一覧表にし、さらには初の試みとしてそれらを図解にした資料を巻末に示した。
これは、それ以後の日本医事新報社から発刊し続けた『運動・生活ガイド』シリーズの嚆矢となった記念すべき書である。