<武藤所長 著作を語る>

#31『からだを育む』丸善 1997年


・武藤芳照、太田美穂  共著
・発行:丸善
・発刊:1997年8月1日
・サイズ:四六判・166P
・ISBN‏ : ‎978-4621060636

 

 

 

 

 

 著者が旧東京厚生年金病院整形外科の臨床医から、東京大学教育学部という文系学部の助教授に就任したのは、1981年8月1日である。所属先は、体育学健康教育学科体育学講座であった。それ以後の広く様々な活動の源泉を形成する基盤となったのは、この講座の教育・研究者であったおかげであることは間違いない。ただ、医師として、この「体育」という学問領域にどのように関わればよいのか、というのは、長く自身の中に、大きな命題として存在し続けていた。
 そうした思索の中、札幌医大整形外科学教室石井清一教授)から研究生として、スポーツ医学の研修に国内留学して私の研究室に登場したのが共著者となった太田(現・福島)美穂医師であった。

 「本書のタイトル『からだを育む』は、著者の2名が、「体育」の意味を吟味・論議していく中で、確認できた本質である。そのことが確認された時、社会の中のさまざまな事象を見つめる視点と論考・思索の方向性が定まったように思う。
 それは、体育・スポーツの事柄に限らず、教育・医療・福祉の分野の事柄まで拡がりつつある。」(あとがきより)
 つまり、体育を「からだを育む」と読み、英語訳をPhysical Educationとすることで、それぞれの体育に関わり、体育の教育・研究者として活動することへの少なからず抱いていたとまどいやためらいが消えていった。
 そこから新たな思想の展開と実践領域の拡充がなされていったように思う。
 そして、全国初の「身体教育学講座」誕生(1994年)の思想的基礎が固められていった。

 「本書の内容の多くは、共同通信社スポーツ特信部配信に毎週掲載中の『スポーツと健康』の記事を基盤にしている。この連載は、武藤の名で3年近く行っているが、『からだを育む』という主張を確認できた後のこの1年あまりは、素材の研究、論旨の進め方について、武藤、太田の論議を骨格にして執筆している。」(「あとがき」より)

 全体の目次、構成は次の通りである。


第Ⅰ章 子どものからだを育む

第Ⅱ章 女性のからだを育む

第Ⅲ章 中高年のからだを育む

第Ⅳ章 障害児・者のからだを育む

第Ⅴ章 スポーツ選手のからだを育む

第Ⅵ章 健全なスポーツ観を育む


 各章の扉には、その章にふさわしい名言・格言を記し、内容の基本理念を伝える工夫をした。たとえば、「第Ⅰ章 子どものからだを育む」の扉には、次のような言葉が記載してある。

「自然は、子どもが大人になる前に子どもであることを望んでいる。」(ルソー)

「遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん 遊ぶ子どもの声聞けば 我が身さへこそゆるがるれ」(梁塵秘抄)

「君は、本当は、いい子なんだよ。」(小林宗作『窓ぎわのトットちゃん』より)

 各文章の中に組み込まれたイラスト(桐井聖司氏)、写真(松木敬市郎氏、山田海峰さん少林寺拳法連盟、高齢者総合福祉施設ケアポートよしだ、毎日新聞社、共同通信社)の提供協力者のそれぞれの名前を改めて見ると、当時の連携・交流の証のような印象的な記憶が蘇える。

 

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