- 著作を語る
- 2021.08.31
<武藤所長 著作を語る>
#25『新・ドーピングってなに?』シリーズ ブックハウスHD 1996年 / 1997年
・編集:日本水泳連盟
・発刊:1996年 / 1997年
・発行:ブックハウスHD
・サイズ:A5
(武藤芳照、構成・執筆)
本シリーズは、『ドーピングってなに?Q&A』(1989年)と『これだけは知っておきたいドーピング』(1993年)の内容を基本にして作成された『新・ドーピングってなに?』(1996年)を改訂及び、それをさらに新たに改定した版(1997年)である。最新の情報を入れつつ、より現場の選手とコーチたちにわかりやすい形に新たに構成・執筆された。
水泳はもちろん、他のスポーツ選手、コーチ・指導者、役員、スポーツドクター、トレーナー、マスコミ関係者等にもきわめて好評で、アンチドーピングの教育・啓発図書として大いに普及した。
最も重要な点は、1994年の広島アジア大会で、中国競泳選手11名のメダリストらの大量ドーピング事件(『汚れた金メダル』松瀬 学 著、文藝春秋社 1996年刊 に詳しい)に現場責任者として関わった経験から、ドーピング検査の意義を真剣に思索した結果、「スポーツの健康診断」(「はじめに」古橋廣之進)と位置づけられたことにある。
何事も、基本理念が大切であると、それ以後の様々な事業や活動に向き合う姿勢が確立したのも、このシリーズの大きな効果であった。
「1.ドーピングの意味と歴史」「2.アンチ・ドーピングの目的」に始まり、「街の薬局の筋肉増強剤に注意」「18.ぜんそくでも使えるクスリはある」「19.栄養補助剤(サプリメント)の使い方」等、合計21章のQ&A方式の解説が主体である。
それに加えて、「選手、コーチからみたドーピング」のコラム(糸井統、黒鳥文絵、鈴木大地、田口信教)やわかりやすくて面白いイラストが随所に組み入れられており、巻末資料は、禁止物質の解説の他、からだのトラブル対処法、各種嗜好飲料のカフェイン含有量、主なドリンク剤一覧表、使用してもよい一般薬等が示され、選手・コーチのための現場サイドの教育・啓発の点が貫かれている。
表紙に描かれた水泳医学のロゴマーク、通称「FINAちゃん」の意味説明「アシカが海で浮袋を使っている図。泳ぎの達者なアシカでさえも、時々は浮袋というサポートが必要という意味から、選手にも、時々は医学的サポートが必要という意味がこめられている」や、アンチ・ドーピングの日本語と英語の標語「Swim to Conquer 勝利をめざして泳ごう! Win with Honor 誇りをもって勝とう!」も記されており、随所に制作陣の知恵と工夫が凝らされている。
当時、日本水泳ドクター会議の事務局長としての運営と日本水泳連盟医・科学委員、国際水泳連盟(FINA)医事委員として、アンチ・ドーピング活動に、どっぷりと浸っていたことを改めて認識させられる。