#06「A I(人工知能)で転倒予防」
A I(Artificial Intelligence)は近年どんどん進化し、様々な分野・領域で応用されるようになり、今後、その応用範囲はさらに広がるだろう。
これまで人間にしかできないとされてきた高度な知能活動である考えること、記憶すること、言葉を理解すること、いろいろなことを推論すること、問題を解決することなどをコンピューターに対応させることになる。
将棋界でも、プロ棋士とA Iとの対決が話題になり、藤井聡太八段が棋力アップのためにA Iを活用していることはよく知られている。
映画『A I崩壊』(2020年1月公開)では、近未来の日本で、医療人工知能の暴走によるパニックを描き、A Iの優れた高度な機能と合わせ持つリスクを伝えている。
病院に入院している高齢者の転倒・転落事故及びヒヤリ・ハット事例は、日々数多く発生している。骨折や脳障害等の重大な事故につながる例も少なくない。その予防や低減のために、「転倒・転落アセスメント・シート」を活用して入院患者への見守りやケアを行っている病院が多いが、そのための看護業務の負担の増加と情報共有の困難さが大きな課題の一つであった。
今般、私が理事長を務める日本転倒予防学会(東京都中央区)の推奨品の一つとして認定された「転倒・転落予測システム Coroban®️」は(販売元:エーザイ株式会社、開発元:株式会社FRONTEO)、日々の看護師の業務として記載されている入院患者さんの看護記録をA Iが解析し、一人ひとりの転倒・転落リスクを予測し、看護ケアを介しての転倒・転落リスクの低減と事故予防に役立てようというものだ。
特に、今般、A Iの機能を強化し、転倒・転落リスクに寄与する9つの要因をレーダーチャートで表示して「見える化」することで、医師、看護師が個々の患者さんのその時の転倒・転落リスクの状況を把握しやすくなった。とりわけ、9つの項目の中に「言葉」を組み入れているのが現場感覚を象徴している。
より有効な看護ケアの計画を立てやすくなり、入院中の転倒・転落事故予防に、今まで以上に効力を発揮すると共に、看護師の日常業務の負担低減にも役立ち、より質の高い、安心・安全な医療の実現に結びつくことが期待される。
医療の本質は、アナログであり、一人ひとりの医師・看護師をはじめとする医療従事者の資質・能力そして人間性が最も重要だ。これにデジタルとしての最新の医療機器、システムが加わり、より効率的・安全な診断・治療、リハビリテーション、予防が実施されることが望ましい。
A Iを活用したこの「Coroban®️」の最大の特徴は、日常看護業務の一つとして作られる自由記述の文章(アナログ)と高度な情報機器システム(デジタル)とのハイブリッド(混合型)により、医療の本質を大切にしつつ、最新科学技術を合理的な形で取り入れていることだ。
「情理を尽くす」という言葉があるが、医療においては、その基本姿勢は特に重要だ。「情」は人間性(Human)であり、「理」は科学(Science)ととらえられる。その基本思想に基づき、かつA Iを活用することに伴うリスクや短所にも注意を払いつつ、さらなる進化を目指して、医療安全と転倒予防に努めることが求められていると思う。
(2020.12.2)