- 健康医学 面白ゼミナール
- 2024.06.25
世の中には、カタカナや外国語の略称があふれています。「NHK」「JR」や「パソコン」「デジタル」などは、日常の会話でごく普通に用いられています。
PTA(Parent Teacher Association:親と教師の会)、ATP(Adenosine Triphosphate:アデノシン三リン酸)、TPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋戦略的経済連携協定)などなど。それでは、これらと似ていますが、くすりのPTP包装は、ご存じでしょうか。
これは、Press Through Pack(指で、表のプラスチック部分を上から押し、裏側のアルミ部分を破いて、一つずつ取り出される錠剤やカプセル剤の包装方式)です。よく見てはいるが、その包装の名前は知らない方が、ほとんどかもしれません。
この包装方式だと、常に衛生的に保管でき、また携帯する時にもとても便利です。しかし、実は、シートのままくすりを飲み込んでしまって、のどや食道、胃腸の内壁に突き刺さってしまい、内視鏡で取り出したり、穿孔(つきぬけている穴)をきたして手術を受けなければならないような、とりわけ高齢者の事例が起きています。
高血圧症や脂質異常症の薬、抗血栓薬など沢山のくすりを毎日服用している高齢者は多く、このPTP包装のシートをあらかじめ、ハサミで切って個々に収めておく人も少なくありません。この場合でも、服用時には、間違いなくシートの表側を押して裏側から取り出して、口からお水と一緒に飲み込めば、問題はありません。
しかし、包装シートを一つ一つ別々に切ると、角が極めて鋭利なために、ついうっかり、あるいは認知機能が衰えているためにシートのまま飲み込むと、救急車で病院に搬送しなければならない事態を招くのです。中には、貧血の原因を探るために、内視鏡検査を行った所、十二指腸球部に、PTP包装の角が刺さっていて、それが出血の原因であった事例もあるようです。
PTP包装は、かつては縦と横の両方にミシン目が施されていたのですが、こうした事故例が続いたため、一方向のみのミシン目に切り替えて誤飲事故の低減につなげているのです。
くすりは、病気やケガの治療に大いに効果を発揮してくれますが、量が多すぎたり飲み方を間違うと、逆に健康を害する大きなリスク(risk:危険)をもたらすのです。くすりのリスクに要注意!
執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
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