Dr.ムトーのショート・コラム

 

 

♯10『高齢者エレジー(哀歌)』


 一般的に「高齢者」は、65歳以上を差します。とはいえ、同じ年代でも、一人ひとり体力や健康状態は違うので、一概に「お年寄り」「老人」「シルバー世代」などと表現はできないでしょう。かつて「転倒予防教室」を都内の病院で12年間運営していた時には、65歳~74歳の参加者を「ヤングオールド」、75歳~84歳を「オールドオールド」、85歳以上を「スーパーオールド」と区分けして教室運営を円滑にかつ安全で楽しく参加できるようにと工夫していました。

 2017年に、日本老年学会日本老年医学会が医学的なデータを元に、昔の高齢者よりも現代の高齢者ははるかにからだも健康も優れているので、高齢者の定義は「75歳以上」にしようと提言したことがあります(65歳~74歳を「准高齢者」、90歳以上を「超高齢者」)。そして、最近、政府内では、人手不足の解消と社会保障の担い手を増やすために、また経済界からも、働き手不足への危機感から、「高齢者の定義を5歳延ばすべき」との声が公式な場で語られています。

働く人たちのイラスト(高齢者) 一方、高年齢者の増加している労働現場では、転倒・転落事故が、最も大きな課題となっています。そのために、転倒予防の立場から、そうした事故予防の低減のための対策や啓発活動が、真剣に求められる時代となりました。「死ぬまで働かされるのか!」との市民の反発ももっともであり、時代の「エレジー(哀歌)」でしょう。

 「古希」(70歳の長寿の祝)は、「人生七十古来稀なり」(杜甫)から来ていますが、今や70歳の高齢者は決してまれではなくなりました。その年代の人々は、それぞれの生き方と生活の仕方をもって、自分らしく日々を過ごそうとしています。「やりたいことと やるべきことが一致しているのが生きがい」精神科医・神谷美恵子)を認識して、それぞれの人生の後半を「明るく 楽しく たくましく」(天台座主・山田恵諦えたい)歩みたいものです。

集合している人たちのイラスト(お年寄り)


執筆者:武藤芳照
(東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 / 東京大学名誉教授 / 医学博士)
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