- 著作を語る
- 2021.05.06
<武藤所長 著作を語る>
#11 『子どものスポーツ医学』南江堂 1987
編集:宮下充正、小林寛伊、武藤芳照
発行 : 南江堂
発行日 : 1987年9月15日
サイズ:B4
ページ数:187
ISBN-13 :978-4524225958
子どものスポーツが普及・発展することは良いことである。その指導・コーチングに努力する指導者、教師役、コーチ及び保護者は、「スポーツ技能の指導法にはたけてはいるが、スポーツ活動にかかわる諸器官についての知識に乏しい」(「序・子どもの適応能」宮下充正より)と言わざるを得ない状況は、この書の発刊時(1987年)と比較して、今はどれだけ改善・向上しているかは定かではない。
ただ、こうした書籍や様々な教育・啓発活動の拡大、公認指導者・資格制度の普及・充実が広がったことで、子どものからだのことについての社会の認知や理解は35年前よりは、着実に改善していると信じたい。
『子どものスポーツ医学』が発刊されるまでのスポーツ医学の書籍は、競技スポーツの医学が主体であり、競技現場に役立つ観点からの医学的解説が主たる内容であった。
一方、本書は、“子どもの 子どもによる 子どものためのスポーツのあり方”を軸に、医学がどのように介入し、スポーツをよりよいものにするためにはどうしたらよいかが基本テーマとなっている。
子どものスポーツにかかわる専門医・研究者(運動生理学、脳神経外科、耳鼻咽喉科、皮膚科、心臓外科、呼吸器科、アレルギー科、小児科、泌尿器科・内分泌科、精神神経科、整形外科、婦人科等)がそれぞれ専門の諸器官の発育・発達についての概要と疾患・障害についてスポーツとの関連から解説すると共に、各疾患・障害を有する子どもたちの体育スポーツ・運動の方法・内容・医学的注意事項をやさしく丁寧に記載している。
また、後段には、各諸器官の外傷・疾患の救急処置も示し、子どものスポーツ現場に役立つ総合的なマニュアル、教本として工夫されている。
表紙は、およそ医学書らしからぬ赤色をバックに子どもたちが楽しく運動をする図案となっており、よく目立つ。さらにその内容も従来の医学書に比べ斬新であり、「むずかしいことをやさしく」された記述の魅力により、短期間で増刷されたことを今もよく覚えている。
当時のスポーツ医学に関わる研究者や医師たちの熱い息吹を今も感じることができる“時代の書”と言ってよいだろう。