- 著作を語る
- 2021.02.09
武藤所長 <著作を語る>
#07『スポーツ少年の危機』朝日新聞社 1985年
・著者:武藤芳照
・発行:朝日新聞社
・1985年刊
・サイズ:112×174mm
・ページ数:198
・ISBN-13 : 978-4022554208
・価格:880円(+税)
#08『子どもの成長とスポーツのしかた』築地書館 1985年
・著者:武藤芳照 / 深代千之 / 深代泰子
・発行:築地書館
・1985年刊
・サイズ:127×188mm 四六判
・ページ数:155
・ISBN-13 :978-4-8067-4553-2
・価格:980円(+税)
両著は、いずれも昭和60(1985)年の発刊である。今振り返ってみると、同じ年に「子どものスポーツ」をテーマにした書籍を2冊上梓することができたのは、「我ながらよくできたものだ」と思う。
契機は、2冊とも、朝日新聞の健康欄の「使い過ぎ症候群」(Overuse syndrome)の記事である。それを見て、朝日新聞社の図書編集室の柴野次郎氏及び築地書館の土井庄一郎代表取締役社長から電話をいただいた。
今の子どもたちのスポーツのありようを何とかしたい。その警告となるような本を作って世に出したいという熱い思いと企画趣旨であった。
昭和59(1984)年のロサンゼルス五輪の水泳ナショナルチームのドクターを経験し、次第にチームドクターの現場での活動が増していった頃であり、なかなか多忙な時期であった。それでも医師になって10年、東大教師(当時助教授)になって5年の時代、35歳のスポーツ医学者はすこぶる元気であった。
実際には、まずは築地書館の書籍について、体育学・運動整理学の内容を組み込むために、当時大学院学生の深代千之(現日本女子体育大学学長)・深代泰子夫妻の協力を仰いだ。
子どものスポーツの問題点(第1・第2・第5章)を武藤が、子どもの成長とそれに応じたスポーツのあり方を深代両者とで分担して仕上げた。ある程度自信をもって(当時、新進気鋭のスポーツ医学者の自負と誇りも抱いて)最初の原稿を土井社長に手渡した。
しばらくして、「!!」と絶句状態となるほど、数えきれないくらい沢山の朱入れをした原稿が戻された。それでも何とか書き直して再提出。また、「朱、朱・・・」の指摘。「!!」が幾度か繰り返され、悪戦苦闘した末、完成に至った。それが「読者にとって読みやすく、受け入れられ、社会に役立つ本つくり」の極意を学ぶ経験となった。
同じようなことが朝日新聞社の書籍が同時進行で行われた。こちらは「5章+付章」すべてを一人で執筆したが、「これは築地書館の本の原稿とほぼ同じ」「わかりにくい!」などと「ダメ出し」が幾度も繰り返され、当初の予定よりも遅れに遅れ、結果1985年8月23日、夕闇に包まれた神戸ユニバーシアード大会選手村の医務室で「あとがき」を書き、10月10日の体育の日の発刊となった。
今振り返れば、この2冊の発刊までの日々が、この後の長い執筆活動の基盤となり、「厳しい文章修業」となっていたと思う。また、スポーツ医学での「教育」へのこだわりを確固たるものとした格闘の歴史でもあった。
「教育とは希望を語ることである」(『子どもの成長とスポーツのしかた』あとがきより)。