武藤所長が監修を務めた、本邦初の舞台医学(Stage Medicine)専門書『舞台医学入門』が新興医学出版社より刊行されました。

舞台医学入門

武藤芳照(東京大学名誉教授):監修
山下敏彦(札幌医科大学教授)・田中康仁(奈良県立医科大学教授)・山本謙吾(東京医科大学教授):編集

(新興医学出版社ホームページより)
「演劇・音楽・舞踏など、舞台芸術の医学的対応を学術的かつ実践的にわかりやすくまとめた入門書。舞台芸術にかかわる人たちの高度な技術、動作、より高いレベルを希求することによる過剰な身体的負荷をどのように医学的に管理すべきか、あまり知られていない実際のところをあますことなく伝えます。博多祇園山笠をはじめとした祭りの舞台医学も面白い。」

はしがき

  私事にわたって恐縮だが,『舞台医学入門』の企画に至る背景と動機をたどると,2つの記憶が浮かびあがる.一つは,中学3年生の折に見た映画『赤ひげ』(山本周五郎原作,黒澤 明監督,三船敏郎主演,1965年).骨太のヒューマニズムを基盤にした,江戸時代の医師と師弟愛,庶民の喜怒哀楽を描いた物語である.この素晴らしい映画に感動した私は,「将来は,映画監督になろう.それがダメなら医師になろう.」と密かに心に決めた.そして,今医師となり40年余りを経た.スポーツ医学,身体教育,転倒予防,学校保健等の様々な分野・領域にまたがる自身の名前の通り,「ムトウ(無党)派」の活動を継続してきた.振り返ってみれば,企画,脚本,キャスティング,スタッフ集め,物とお金の手配,広報等,映画作りと共通の活動を続けてきたようにも思う.その新たな企画が,「舞台医学 Stage Medicine」の構想であった.
二つ目は,名古屋大学医学部の学生当時,全学の水泳部に所属して水泳三昧の日々を送って,スポーツ医学に興味を持ち始めた頃,名古屋市内の丸善の医学書コーナーで出会ったのが,『スポーツ医学入門』(児玉俊夫,石河利寛,猪飼道夫,黒田善雄著,南山堂,1969年第3版)であった.スポーツ医学の歴史と現状,スポーツと筋,スポーツと神経,スポーツと栄養,疲労,体力,年齢,熱中症,ドーピング等の内容・構成で,運動生理学,体力医学の分野を主体とした組み立てではあったが,興味深く幾度も読み返し,スポーツ医学への意欲をかきたててくれた.そして,その志を胸に,整形外科医の道を選ぶことになった.
本書は,平成26(2014)年2月7日の第1回舞台医学研究会(於:札幌市)から始まった学術研究活動を基盤に,関連する医学研究と対談記録等を編集・構成してまとめ上げた.学術研究分野,臨床医学領域としての舞台医学は,まだまだ未成熟であることは確かであり,本格的な医学書の形式・内容,質・量の域には達していないであろう.しかし,「入門」の言葉に込められた監修者,編集者,執筆者,出版社の舞台医学という新たな医学分野・領域への開拓の志と,文化芸術への熱い思いは,ぜひ読み取っていただきたい.
本書を手にした医学と舞台芸術を志す若者たちの記憶に残る一頁,一行が刻まれていることを希望する.
最後に,本書の企画を説明したところ即断即決で出版を決済し,編集・制作作業を推進していただいた新興医学出版社 林 峰子 社長に感謝申し上げます.

2018年2月

武藤 芳照